今回の審査会は、私が出席したこれまでの審査会の中で最も短い時間で終了しました。これは、審査対象となった広告の件数と、不適切な事例の指摘件数がどちらも少なかったためです。
まず、不適切な事例の指摘件数が減ったことに関しては、間違いなく喜ばしいことです。不適切な広告が減少しつつあることは、広告の制作・チェック等に携わる関係各位のご努力の賜であり、敬意を表したいと思います。
一方、審査対象広告件数の減少、換言すれば医薬品の広告量の減少については、景気の低迷による経営不振や新製品の発売が滞っていることがその要因だとすれば、製薬業界にとって必ずしも望ましいことではないのかもしれません。しかし、広告費用は会社にとって大きな負担となる経費なので、売り上げに影響しない限り、削減できるのであればそれに越したことはないはずです。
OTC薬の広告が広く行われているのに対し、医療用医薬品について生活者向けの広告が行われていないのは、医療用医薬品の選択は、生活者自身ではなく医師等の専門家により行われるものであるからです。その分、医療用医薬品では多くのMR(医薬情報担当者)を雇用し、医師等の専門家への情報提供に力を入れています。OTC薬についても、新販売制度のもとでは、多少なりともこれに近い考え方を導入することができないでしょうか。
改正薬事法では、一般用医薬品は、「医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの」と定義されています。一般用医薬品の選択は最終的には需要者が行うものである以上、広告の必要性が全くなくなることはありえませんが、定義の下線部分、すなわち、「薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく」選択が特に求められる製品、たとえば今後スイッチ化が期待される生活習慣病薬などでは、医薬品の選択時における薬剤師の深い関与がとりわけ重要になると考えられます。
このような例に限らず、生活者に対して「医薬品は薬剤師等の専門家に相談して購入するもの」との意識を根付かせることを趣旨した新販売制度を定着させるためにも、一般的な方向性として、ややもすれば生活者向けの広告ばかりに重点を置いてきた過去の販売戦略を見直し、薬剤師等に店頭で自信を持って推売してもらえるよう、薬剤師等の専門家に向けた情報提供の比重を高めるべきではないかと考えています。
追記:
ちょうどこの原稿を書き上げたときに、某化粧品メーカーが肌用のOTC医薬品を新たに発売するにあたり、あえて一般消費者向けのCMは行わずに、薬局・ドラッグストアの薬剤師等を対象とした研修により販売展開していく戦略をとる旨、業界紙で紹介されていました。その意図しておられるところが私の考えと同じかどうかは定かではありませんが、このような動きに注目したいと思います。
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